内装フィルムを検討していると、必ず名前が挙がるのがサンゲツのリアテックです。採用実績が豊富で、大臣認定も持つ定番。その上で最近増えたのが「PVCフリーのフィルムとは、結局どこが違うのか」という質問です。ここでは性能の優劣を論じません。素材の軸——塩ビ(PVC)系か、PP/PET系か——というたった一点に絞って、出典のある事実だけを並べます。
違いは「素材の軸」ひとつに集約される
リアテックは大臣認定(不燃NM・準不燃QM)を取得した適法な化粧フィルムで、主素材はPVC(塩ビ)です。韓国製のPVCフリーフィルムはPP/PET系で、分子に塩素を含みません。両者は同じ準不燃という土俵に立つ「別素材」であり、違いの本質は、火災時に塩化水素(HCl)の発生源となる塩素があるかないか、その一点にあります。
このあとの節は、この一文を分解していく作業だと思ってください。リアテックが何であるか、塩素という元素が火災時にどう振る舞うか、塩素を持たない素材だと何が変わるか、そして等級認定の仕組みはどちらも同じだという事実。順に見ていきます。
リアテックはどんな製品か
リアテックはサンゲツの「粘着剤付化粧フィルム」です。壁紙(壁装材)ではなく、粘着剤付きの化粧フィルム——つまり当社が扱うPVCフリーフィルムと同じカテゴリの製品です。日本は、こうした本物の化粧フィルムが不燃・準不燃の認定を得て流通する、世界でも数少ない主流市場のひとつです。もう一方の代表格が3Mのダイノック(DI-NOC)で、こちらも日本で不燃の大臣認定を多数持っています。
そのリアテックの主素材はPVCです。日本の規定ではPVC製品に「∞PVC」の材質表示が義務づけられており、そこから素材が読み取れます。ダイノックも同じくビニル/PVC系。要するに、日本の化粧フィルム市場を支える二大製品は、どちらも塩ビをベースにしているということです。
念のため書き添えると、これは欠点の指摘ではありません。リアテックは正規の試験を通って認定を取得した、法令上まっとうな製品です。ここで扱いたいのは「良い・悪い」ではなく、塩素を含む素材と含まない素材とで、火災時の化学が構造的に変わるという事実のほうです。

塩素という元素が持つ二つの顔
PVCが塩ビ(ポリ塩化ビニル)と呼ばれるのは、重量のかなりの部分が塩素(Cl)だからです。実製品の塩素含有量はおよそ35〜55wt%とされます(Zhang et al. 2015, Waste Manag Res 33(7):630)。この塩素が、火災の場面で二つの顔を見せます。
ひとつは、燃焼を抑える顔。加熱されたPVCは塩化水素(HCl)を放出し、このHClが炎の中で燃焼の連鎖を担うラジカルを捕まえます。消火剤に近い働きで、プラスチックのなかでは自己消火性が高いほうに入ります(硬質PVCの限界酸素指数45〜50%。硬質限定の値)。
もうひとつは、有毒ガスの原料になる顔。同じ塩素由来のHClは、火災研究の分野で古くから論点でした。PVCは200〜300℃という、本格的な炎が立つ前の熱分解段階ですでに多量のHClを放出し、HClは100ppmを超えると耐えられないほどの刺激性ガスになります。さらに一酸化炭素(CO)から二酸化炭素(CO₂)への変換を妨げ、火災ガス全体の毒性を押し上げます(Hull, Stec & Paul 2008, Fire Safety Science 9:665)。試験を通すのを助けた化学と、実火災で人を脅かす化学が、同じ塩素だというねじれ。ここが比較の中心軸です。
これはニュースの見出しより、統計の側で確認できます。建物火災の死因で最も多いのは炎による焼死ではなく、煙と有毒ガスの吸引です(韓国消防関連の分析では、共同住宅火災の死亡の77.9%が煙・有毒ガス吸引に関連——共同住宅に限った数字。国家火災情報システム2014〜2018)。この論点は火災で命を奪うのは炎ではなく煙で詳しく整理しています。
誤解を避けるために、線を引いておきます。ダイオキシンについては、塩素を含む物質が燃える過程で燃焼温度や酸素量などの条件によって生じうる、条件依存の現象です。どんな火災でも必ず出ると断定できるものではありません。発がん性の分類も同様に限定的で、IARCのグループ1に入るのは塩化ビニルモノマー(製造・職業曝露)とダイオキシン(燃焼の文脈)であって、完成品のPVCフィルムそのものではありません。可塑剤(フタル酸エステル類)についても、小児の喘息やアレルギーとの疫学的な「関連」が報告される段階で、因果は確立していません。断定的に言えるのは、「塩素があればHClの原料になる」という一点だけです。
そしてもう一点、公平のために。認定を受けたPVCの準不燃製品は「まがいもの」ではありません。ガス有害性を含む規格試験を適法に通っています。ただ規格試験は、定められた条件下の一枚のスナップショットです。より大きく高温の実火災でPVCが多く燃えれば、塩素はそのままHClとダイオキシンの前駆体になる——この枠組みでのみ、素材の違いを語ります。
PVCフリー(PP/PET)は塩素という「出発点」がない
原理はいたって単純です。燃えたときにHClが出るのは、素材に塩素があるから。ならば塩素を含まない素材を選べば、HClの「原料」そのものが最初から存在しません。ケーブル業界がPVC被覆からLSZH(低煙・ハロゲンフリー)へ移った理屈と、まったく同じ発想です。
当社が流通する内装フィルムは、ベースがポリオレフィン系(PP/PET)で、塩素を含みません。防火の性能は塩素の自己消火に頼らず、火災安全のための金属層が担う構成です。塩素がないということは、燃焼時にHClを生む出発点がないということ——ここまでが素材化学から言える範囲です。
等級についても正確に。このフィルムは韓国のKFI(韓国消防産業技術院)による準不燃材料の認証(韓国KFI認証/KS F ISO 5660-1)を、製造社名義で受けています。準不燃は「不燃(=燃えない)」ではありません。定められた加熱条件のもとで発熱と延焼を一定以下に抑える等級であり、条件を超えれば燃えます。「絶対に燃えない材料」ではない、という線引きはここでも同じです。
なお、「PVCフリーだから何%安全」といった定量的な優劣は主張しません。素材の違いから確実に言えるのは、塩素という発生源の有無という定性的な事実までです。

認定・認証の構造 — 日本は「組み合わせ」、当社フィルムは「材料そのもの」
ここは正確に区別しておきます。日本の化粧フィルムの不燃・準不燃 大臣認定は、フィルム単体ではなく「フィルム+指定の不燃下地(+指定の接着剤)」という組み合わせに対して与えられます。3Mのダイノック施工マニュアルにも明記された構造で、リアテックのような日本の化粧フィルムも同じカテゴリです。
一方、当社が扱う韓国製フィルムのKFI準不燃認証は、認証の対象が材料(フィルム)そのものです。認証書の形式欄はフィルムの層構成(PET+アルミ箔+PET)で発行されており、下地との組み合わせに対する認証ではありません。
判定に使う試験の物差しは日韓で共通です。日本の準不燃はISO 5660-1(JIS A 1321)のコーンカロリメーターで判定し、その数値——加熱開始後10分間の総発熱量8MJ/㎡以下、最大発熱速度が10秒以上連続して200kW/㎡を超えないこと——は韓国の準不燃とまったく同じです。認定番号の読み方そのものは大臣認定番号(NM/QM/RM)の読み方にまとめました。
つまり、リアテックと当社フィルムの違いは二つの軸で読めます。書類の構造(組み合わせへの大臣認定か、材料そのものへの認証か)と、素材(塩ビか、PP/PETか)。本記事の主題は素材の軸ですが、書類のかたちも同じではない——ここを押さえておくと、仕様書と認定・認証書類の読み間違いを防げます。
立ち位置は正確に書きます。当社のフィルムが持つのは韓国KFIの準不燃認証であって、日本の大臣認定(QMなど)ではありません。試験と数値が日韓で同じだという事実と、日本国内での大臣認定を保有しているという主張は、まったく別のことです。日本で使う際のQM取得は別途の協議・取得が前提であり、「日本の大臣認定を持っている」とは書けません。ここを取り違えないことが、仕様を預かる側の安全側の姿勢だと考えています。
仕様検討で、素材の軸をどう扱うか
実務に落とすと、順番はこうなります。まず等級。準不燃が要る現場なら、リアテックも当社のPVCフリーフィルムも、その等級要件は満たします。等級は入口であって、ゴールではありません。
そのうえで、もう一段の問いを足せるかどうか。「この材料は燃え広がりにくいか」に加えて、「万一大きく燃えたとき、何を出すか」まで見るなら、素材の軸が効いてきます。塩素を持つ素材はHClの発生源を抱え、持たない素材はその出発点を持たない。どちらを選ぶかは、用途・下地・意匠、そして発注者がどこまでのリスクを見込むかで決まる設計判断です。優劣ではなく、判断材料が一つ増える、という話です。
最後に立ち位置を。YEILDECOはメーカーではなく、PVCフリー内装フィルムを扱う流通・代理店です。素材の選定、火災性能の資料、日本のプロジェクトでの適用可否や必要書類については個別にご相談ください。→ YEILDECOのPVCフリー内装フィルムを見る
